引当金は、来期以降に支払うことが予測される費用・損失に備える準備金です。よく使用されるものとして貸倒引当金があります。賞与引当金や退職給付引当金は身近に感じられるため、イメージがしやすいでしょう。
決算書でこれらの勘定科目を見たことがあっても、目的や使い方は詳しくないという方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では引当金について解説し、使用する目的や具体的な勘定科目・仕訳例をご紹介していきます。是非、参考にしてください。
引当金とは? 定義や要件、目的をわかりやすく解説
引当金とは当期以前からの予測が可能な出費をあらかじめ計上する会計処理のこと
企業活動において、来期以降に発生する可能性の高い費用があります。また、取引先の倒産や子会社の業績悪化等、自社だけではどうにもならない損失もあるでしょう。
引当金は、このような費用または損失に備え、あらかじめ見積もっておく金額のことを指します。当期には発生していないものの、来期以降に発生すればその理由は当期にもあるという費用や損失です。あらかじめ見積もって準備することで、期間損益を正しく計算できるというメリットがあります。
また、適正な財務諸表を投資家等の利害関係者に公表することが可能です。具体的には、貸倒れや退職金・賞与や修繕を想定して準備します。
将来支払う予定があれば、何でも計上できるわけではありません。計上するには、以下4つの条件があります。
引当金は4つの要件をすべて満たしたときに計上が可能
引当金を計上するためには、次の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 将来の特定の費用または損失であって
- その発生が当期以前の事象に起因し
- 発生の可能性が高く
- その金額を合理的に見積ることができる場合
以上の4つの要件を満たしていれば、当期分の費用(または損失)を損益計算書に計上し、貸借対照表に記載します。
例えば、5年後に会社の設備の修繕を予定している場合は計上が可能です。5年後に設備の修繕を行うことはスケジュールに組み込まれていて、その設備は現在も使用しています。
既に概算費用も取っているとすれば、4つの要件を満たすでしょう。
修繕費の見積額のうち、今期に該当する分を引当金繰入額または引当金に計上します。
引当金を用いる目的は発生主義・保守主義的に正しい会計処理をするため
引当金は、発生したタイミングで計上しましょうという発生主義と、財政に不利な影響があるなら備えておきましょうという保守主義の原則に沿って計上されます。
今期に起因する支出が将来高い確率で予測できるのならば、今期の費用として前倒し計上しておきましょうという考え方です。期間損益を正しく計算し、利害関係者に正確な情報を伝えるためにあります。
企業会計原則のひとつ|発生主義とは
発生主義とは、取引で発生したすべての費用や収益は、発生したタイミングで計上しなければならないという考え方で、企業会計原則のひとつです。
現金の受け渡しがあったかどうかは関係ありません。取引の記録を行うのは、会社がお金を払う義務またはお金を受け取る権利が発生した場合です。
「取引の記録は発生主義に基づいて行う」という言い方をします。
前述した「5年後に修繕が予定された会社の設備」は、今期も使用している設備のため、修繕を行う理由には今期の使用による劣化等も含まれています。
そのため、修繕費の一部は、今期に発生した費用と考えるのです。
企業会計原則のひとつ|保守主義とは
保守主義とは、将来に予想される危険な状態に備えて、慎重に会計処理を行うことです。
保守主義では、企業にとってプラスの予想がある項目は慎重に計上します。つまり、損益計算書の収益・利益や貸借対照表の資産は、できるだけ確実なものだけを計上するのです。
一方、マイナスが予想される項目は漏れなく、こと細かに計上することが求められます。損益計算書の費用や貸借対照表の負債は、できるだけ厳密に計上するのです。
前述した「5年後に修繕が予定された会社の設備」を例に挙げると、修繕を行う可能性が高いので、その費用を細かく計上しておくということになります。
ただし、過度に保守的な処理を行うことは真実性を失う恐れがあるため、明確に禁止されています。複数の処理方法がある場合は、保守的な会計方法の選択が可能ということです。
例えば、期末の棚卸で低価基準を採用する、減価償却では定率法で計算する等が保守的な会計処理になります。
もし引当金で会計処理をしないとどうなるのか?
もし、引当金で会計処理を行わなければ、今期に起因する費用が財務諸表には表示されないことになります。高い確率で発生する費用が、公開される資料には掲載されません。
費用が計上されていないので、あたかも大きな利益が発生しているように見えるでしょう。その財務諸表を見て、利益が出ていることを理由に投資家は投資を行います。
ところが、実は隠れた費用があったということになれば、安心して投資を行うことはできません。
また、銀行は融資の際に公開されている財務諸表を融資の判断材料として用います。正しく費用が計上されていなければ、融資を行えるかの判断ができません。
つまり、会計処理に引当金を用いるのは、次の2つの観点からと考えられます。
- 期間損益を正しく計上すること
- 投資家や銀行機関等の利害関係者にすべての情報を正確に提供すること
引当金は「評価性」と「負債性」の2種類に分類できる
評価性引当金|資産に計上する引当金
損失に備えるものを評価性引当金と言います。例えば次の勘定科目が資産から控除されます。貸借対照表では、資産の部にマイナスの値で表示されるのがポイントです。
貸倒引当金 | 取引先が倒産したことにより、売掛金等の債権が回収できなかったときの損失を予想しあらかじめ計上する |
投資損失引当金 | 子会社等への投資による損失に備えて計上する |
負債性引当金|負債に計上する引当金
将来の支出・費用に備えるものを負債性引当金と言い、貸借対照表の負債の部に記載します。
次の勘定科目は代表的な負債性引当金です。
賞与引当金(債務性あり) | 翌期以降に従業員のボーナスを支給する可能性が高い場合に、当期の負担分を計上する |
修繕引当金(債務性なし) | 保有する固定資産の定期的な修繕に備えて計上する |
引当金の多くは負債性に分類され、債務性のあるものとないものに区分されます。
内容を詳しく見ていきましょう。
評価性引当金|資産に計上する引当金の具体例・2つ
貸倒引当金とは債権の貸し倒れ(回収不能)に備える勘定科目
貸倒引当金とは、将来発生する貸し倒れを想定し、備えるための勘定科目です。売掛金や受取手形等の売上債権に回収不能リスクがあれば、マイナスの資産として計上し、将来の損失の可能性を提示します。
例えば、今期X社に対して100万円の売掛金を計上したとしましょう。
受け取りは来期の予定です。ところが、X社が来期に倒産してしまうと、回収できなかった売掛金のすべてが貸倒損失になります。この損失をあらかじめ見積もって計上するのが貸倒引当金です。
投資損失引当金とは子会社等への投資の損失に備える勘定科目
子会社への投資は、損失が出る可能性もあります。特に、子会社の業績悪化により、実質価額が下がっているとしたら、保守主義の観点からも会計処理を慎重に行っておきたいと思うでしょう。このように子会社への投資損失に備える勘定科目が、投資損失引当金です。
会計基準では、非上場である子会社の株式が著しく低下しない限り減損対象になりません。
しかし、既に株式の実質価額が低下しているのであれば、損失計上を行うことが認められています。
なお、投資損失引当金の計上基準は会計方針に記載する必要があります。
また、税務上の損金にはならないことも注意が必要です。
負債性引当金|負債に計上する引当金の具体例・3つ
賞与引当金|予定している賞与に備える勘定科目
賞与引当金は、賞与の準備として見積計上しておく時に使用する勘定科目です。ボーナスの金額は確定していないものの、支給する可能性が高い場合は、支給見込額のうち当期負担分を計上します。
例えば、夏のボーナスの査定期間が10月〜3月とします。仮に3月決算の会社であれば、支払いは来期だとしても今期に全額見積計上するのが保守主義の観点からも妥当と言えるでしょう。この時に使う勘定科目が賞与引当金です。
もし、見積金額と賞与額に差が出れば、賞与の勘定科目で調整を行います。
退職給付引当金|退職後に支払う給付に備える勘定科目
退職給付引当金は、退職金の支払いに備えて計上する勘定科目です。退職金制度のある会社では、退職金は将来給付する可能性が高い費用のため、準備しておく必要があります。
引当金を計上せず退職した際に費用とすると、退職者がいるかどうかでその年度の企業の損益に大きく影響を及ぼすためです。
退職金の発生理由である労働は、毎期発生しているので、その期に発生した分は費用に計上しておくことで正しい期間損益の計算が行えます。
修繕引当金|設備等固定資産の修理に備える勘定科目
建物や機械等の固定資産は定期的なメンテナンスが必要です。毎期行っている修繕が何らかの事情で今期は行えなかった場合や支払いが来期になった場合は、修繕引当金を見積計上します。
また、定期メンテナンス以外でも当期に修繕が必要な状態になった設備について、実際に修繕を行ったのが来期だった場合も修繕引当金の計上が可能です。
修繕が必要になったのは当期のため、発生主義の考えに基づき当期に計上します。
設備の修繕は義務ではないため、計上は企業の判断で行いますが、大規模修繕の費用は決算に与える影響が大きいので計上するのが一般的です。
【注意】税制改正で廃止となった返品調整引当金の経過措置について
医薬品や本・CD等は、販売して売れなかったものは、返品することが条件になっている場合があります。それらの商品の来期以降の返品に備えて計上する勘定科目が、返品調整引当金でした。
返品調整引当金は、2018年の税制改正で廃止され、あらかじめ返品される分を考慮し、商品の売上げから直接控除する方法に変わっています。使用する勘定科目は返品資産です。
ただし、廃止にあたって経過措置が設けられています。2021年3月31日までにスタートする事業年度までは、現行通り使用できました。
また、2030年3月31日までの10年間は、損金算入限度額に対して1年ごとに1割ずつ限度額が減少するものの、損金算入が可能です。2030年4月1日以降は、使用できなくなります。
2種類の引当金それぞれの仕訳例
評価性引当金の仕訳例
評価性引当金の仕訳を、発生する可能性の高い貸倒引当金を例に解説していきます。貸倒引当金には、洗替法と差額補充法の2つがあります。
洗替法とは、前期末の貸倒引当金を収益に戻し入れ、当期末に改めて繰り入れる方法です。
差額補充法では、前期末の計上と当期末に計上すべき金額の差分を計上します。
仮に前期末に5万円が計上されていた場合は、仕訳は次の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | 50,000 | 貸倒引当金 | 50,000 |
今期末に貸倒引当金を7万円計上する場合の洗替法・差額補充法の仕訳例は次の通りです。
貸倒損失は発生しなかったものとして仕訳を行っています。
【洗替法】
前期の分は取り崩し、新たに7万円を計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金 | 50,000 | 貸倒引当金戻入 | 50,000 |
貸倒引当金繰入 | 70,000 | 貸倒引当金 | 70,000 |
【差額補充法】
前期と当期の差額を計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | 20,000 | 貸倒引当金 | 20,000 |
負債性引当金の仕訳例
負債性引当金の仕訳は、応用しやすい賞与引当金を例にとってご紹介します。
翌期7月に支給する賞与(査定期間は1月〜6月)の金額見積が300万円でした。決算は3月です。この場合に計上する賞与引当金は次の計算式で求められます。
3,000,000 × 3/6 = 1,500,000
決算時の仕訳は次の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
賞与引当金繰入 | 1,500,000 | 賞与引当金 | 1,500,000 |
翌期になり、実際に300万円の賞与が支給された場合の仕訳は次のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
賞与引当金 | 1,500,000 | 普通預金 | 3,000,000 |
賞与 | 1,500,000 |
なお、負債性引当金のうち、通常1年以内に使用予定のある賞与引当金は流動負債として、1年以上経過してから使用される退職給付引当金は固定負債として表示します。
税務上は中小企業の一部の貸倒引当金以外損金不算入である
企業会計においては、より正確な損益計算書を作成するためにも、引当金の計上は必要不可欠です。
一方、税務上では見積もりによる損金の計上は認められていません。つまり引当金の損金算入はできないのです。
ただし、損金算入が可能になる例外はあります。それは、中小企業や金融機関における貸倒引当金です。
ここで中小企業とは、資本金が1億円以下の中小法人を指し、大企業の完全子会社は含まれません。
貸倒引当金以外を計上している企業は、法人税の申告書に調整を加える必要があります。また、貸倒引当金を損金算入する場合は、確定申告書への明細貼付が必要です。
引当金の要件や個別の勘定科目・仕訳まとめ
この記事では、引当金を用いる目的や要件・仕訳例を説明してきました。
引当金は、正しい期間損益を計算し、投資家や銀行機関等に有用な情報を提供するために用いる重要な勘定科目です。将来発生する公算が大きい特定の費用(損失)で当期以前に発生理由があり、見積りが可能なものに使用されます。
引当金は、貸倒引当金のような「評価性」と、賞与引当金のような「負債性」の2種類に分類できます。
ご紹介した仕訳例をもとに引当金を正しく理解し、期間収益の適正な把握に役立ててください。